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暗闇のカオルと 閉ざされた記憶

第二章 悪夢 6

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 だいぶ日が暮れて、児童公園はかなりうす暗くなっていた。
 すっかり仲良くなったカオルたち三人は、相変わらずの軽い会話を楽しんでいた。
 そんな中、ふとカオルは公園の奥に目をやった。
 ……ん? ……何だ?
 五十メートルほど先の大きな木の辺りに、不気味な何かを感じた。
 うっそうと葉をしげらせた大きな木の、影となっているその場所は、周囲よりさらに暗く、うす気味悪い空気がただよっている。
 見ていると心が深いきりにおおわれ、その 霧が段々と黒く染まりだすような感覚になる。
 急激に広がる不安に襲われたカオルは、その木かげの暗がりを目をこらして見つめた。黒い何かが見えるが暗くてよくわからない。
 何か嫌な感じがする。
 カオルが確信に近い不安を感じていると、公園の外灯が灯り出した。
 公園にまばらに立てられた外灯が、一つ、また一つ、と順次に灯っていき、公園を包み込むうす闇を少しずつ取り除いていく。
 そして、その大木のそばにある外灯が灯り、木かげの暗がりを明るく浮かび上がらせた。
 そこにカオルが見たものは──
 カオルの全身を強烈な衝撃が駆けめぐった。
 どきん、とひときわ強く打った心臓がずきりと痛み、跳ね上りそうになった体が一瞬でこわばり細かく震えだす。
「ん? どうしたのカオル?」
 異変に気づいた彩華の声などカオルの耳に入らない。見たものに完全に意識をうばわれているからだ。
 な、なんで、ここに……
 極度の緊張で、全身の毛穴から冷や汗が吹き出す。
「ちょっと、カオル?」
 爪あとが付くほどにこぶしを強く握りしめ ているカオルは、彩華と奈々美がこの場にいることなど完全に忘れ、立ち尽くしている。
 夜が近づき冷たさを増した風がカオルに吹きつける。大量にかいた汗を蒸発させて体温をうばうが、寒さなど感じる余裕はカオルには無い。
 カオルは凍りついた表情でただ一点を見つめる。その視線の先には、闇に溶け込むような黒い学生服を着た男子がいた。街灯のオレンジ色の光を浴びて、亡霊 のように闇から現れたその人物は、カオルの方を厳しい目付きで見すえていた。
 それはカオルもよく知る人物で、忘れたくても忘れられない人物、
 ──鮫口龍二だった。
 公園の奥で二人の男子を従えた鮫口が、カオルをにらんで立ち尽くしていた。
「カオル!」
 肩をゆすられながら呼ばれたカオルは、驚きで激しくびくつき目を見開いて振り向いた。
 カオルの異常な反応に逆に驚いた彩華だが、すぐに心配そうな顔をすると優しく聞いた。
「どうしたのカオル? 何があったの?」
「……あ、いや、その……な、何でもないんだ……」
 やっとのことで我に返ったカオルは、なんとか言葉を発して誤魔化した。しかし、明らかに何かあったとしか思えないカオルの反応に、彩華はさらに心配そう な顔をする。
「何でもないようには見えないんだけど……言えないことなの?」
「……いや、その……もう済んだことなんだ……」
「本当に済んだことなの?」
「……ああ」
 カオルは平静を装って答えた。
 しばらくカオルの顔を見ていた彩華であったが、納得したような顔で言った。
「わかった、じゃあ、帰ろっか」
 話たがらない相手からは無理に聞き出さないのが彼女流の優しさなのか、彩華は公園の入り口の方へ振り向くとゆっくり歩き出した。
 奈々美は、カオルの突然の変わりようにかなり驚き、不安そうな様子だったが、歩きだした彩華と突っ立ったままのカオルを交互に見たあと、彩華のとなりへ 駆けて行った。
 公園の奥の、鮫口がいた木かげへ、カオルは視線を戻した。
 しかし、誰もいない。まるで亡霊が闇にまぎれてしまったように、いなくなっていた。
 ……幻覚だったのか?
 鮫口の姿が見えなくなっても不安が消えないカオルは、無意識に胸に手を当てると、母の形見の指輪を服ごしに握りしめた。
「カオル、帰るわよ!」
 公園の入り口で、奈々美と並んで立っている彩華が、大きな声でカオルに呼びかけた。
 指輪を握ることで、少しだけ不安を振り払ったカオルは、彩華たちのもとへ駆けて行く。
 そして、先ほど見た光景を記憶の奥に封じ込め家路についた。

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