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暗闇のカオルと 閉ざされた記憶

第八章 追跡者 2

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「それじゃあ、簡単に説明するわね」
 あやしい変装顔から、ほおにシップを当てたりりしい顔になった彩華が言った。どんな格好も絵になる女子高校生だ。
「正志。これは秘密の話なんだけど、実は、わたしとカオルは強化人間を探してるの」
「知ってる」
「……そ、そう、し、知ってるのね。……さすが正志ね」
「ううん、おれだけじゃなくて、二組の生徒も大半が知ってる。カオルと彩華は目立つから」
「…………」
「で、その強化人間がどうかしたの?」
「そ、そう! その強化人間! その強化人間の、とんでもない極秘情報を手に入れてしまったの。昨日は一日中、インターネットで強化人間の情報を探 してたんだけど──」
「えっ! もしかして、カオルたちが昨日休んだ理由って、それだったの?」
「そ、それはちょっと違うわ。昨日休んだのは、なんて言うか、そう、静養のため! それで時間があったから、強化人間の情報を探したの。と、とにかく、昨 日休んだことと、強化人間探しはまったく関係ないの」
 カオルのことを気づかってか、彩華は怪我のことには一切ふれない。そして、そのことが気になるだろう正志も、彩華の態度を見て聞かれたくないと感じたの か、一切聞かないし、気にする素振りも見せない。さりげなく先をうながす。
「わかった。で、その強化人間のとんでもない極秘情報ってのは何なの?」
「これよ」
 彩華はテーブルの上の文書を指差した。だが、カオルには横書きに印刷した劇の台本にしか見えない。『あやぱん』と『いんきょ』、この二人の台詞が書いて あるだけだから、正志にもそう見えることだろう。
 しかし、正志はカオルよりも物知りだった。
「これはネット掲示板かな? この『あやぱん』ってのが、彩華の書き込みでいいんだよね?」
「そう。ネットの掲示板よ。で、正志の言った通り──」
「おい! ちょっと待て!」
 カオルは思わず彩華を止めて、その疑問を口にした。
「ネットの掲示板って、確か、誰でも自由に書き込めて、自由に読めるやつだろ。そんなところに極秘情報なんかあるのかよ」
「あったのよ!」
「それ、極秘じゃないだろ」
「極秘よ!」
「いや、極秘じゃない!」
「いいえ、極秘!」
「まあ、まあ、二人とも落ち着いて。せっかく資料が目の前にあるんだから、彩華の説明を聞いてみようよ」
「さすが正志、話がわかるわね。それに比べてカオルは、わたしに反抗することしかしないんだから。まったく、いつから反抗期になったのかしら」
「悪かったな反抗期で。どうぞ、極秘のお話とやらを進めてください」
「憎たらしい言い方。まあいいわ。説明するわ。昨日、強化人間の情報を探して、ネットでいろんな人と情報交換してたんだけど、そうしたら、強化人間の開発 に関わった人と偶然会ったのよ」
「そいつ、ただのウソ吐きなんじゃ……」
 思ったままを口にしたカオルを、彩華はひとにらみして続ける。
「で、その人がこの『いんきょ』さん。わたしも、始めは半信半疑で会話してたんだけど、会話しているうちに、ほんととし思えなくなっちゃったの。とにか く、その『いんきょ』さんとの会話を見てみてよ」
 言いながら、彩華はその文書をカオルと正志が見やすいように置き直した。
 カオルと正志は無言でそれを読み始めた。

あやぱん──強化人間ってほんとにいるの?
いんきょ──いる。
あやぱん──強化人間って、もしかしてサイボーグみたいなものなの?
いんきょ──違う、生身の人間。
あやぱん──じゃあ、強化人間って、いったい何なの?
いんきょ──それは極秘事項に関わるので、くわしくは言えない。思考力、身体能力、知覚能力などが、一般人とは比較にならないほど高い人間、そう思ってお けば間違いない。色々なタイプがあって、一概いちがいに は言えないが。
あやぱん──いんきょさんは何者?
いんきょ──昔、プロジェクトに関わってた者。身の危険を感じて、今はその名のごとく隠居の身。
あやぱん──何でもいいから、話せる範囲で強化人間のこと教えて
いんきょ──おいおい、なんだそれは。まあ、いい。話せる範囲でプロジェクトのことを話そう。
いんきょ──強化人間開発のプロジェクトが開始されたのは今から十八年前。当時、学生ながらも十年に一人の天才科学者と言われたS.S。その人が提唱した とある理論をもとに進められた。利権の話や、政治上の話で、いろいろゴダゴダがあって、非常に物騒なプロジェクトだった。でも、プロジェクト自体は順調に 進んで、強化人間が開発された。当然だが、その過程で人体実験もたくさん行われた。今プロジェクトがどうなってるかは知らない。
あやぱん──強化人間の情報に懸賞をかけてるサイトがあるけど、そのプロジェクと関係はあるの?
いんきょ──知らん。
あやぱん──そのサイトは、強化人間の発見者に賞金百万円を出すようだけど、強化人間って街中歩いてるの?
いんきょ──知らん。
いんきょ──いや、待て、何か聞いたことがある。確かイレギュラーがあったとかで、実験体が一人、プロジェクトを離れて一般人として暮らしているとか。そ れのことかも。
あやぱん──くわしく教えて。
いんきょ──くわしくは知らんが、聞きかじった話では、男の子で、現在は高校生ぐらいだと思う。その男の子がどこに住んでるかとか、どういう経緯でそう なったかとかは一切知らん。すまん。
あやぱん──そんなぁ。
いんきょ──どんまい。
あやぱん──賞金が欲しいんだけど、どうやって探したらいいと思う?
いんきょ──うーん、難しい。というか、まず無理。本人から名乗りでない限り、わからない。
あやぱん──発信器のチップとかうめ込まれてないの?
いんきょ──知らん。うめ込まれていたとしても、一般人には探しようがない。
あやぱん──そこをなんとか。
いんきょ──知らんものはどうしようもない。君の熱意は認めるが、危険だから関わらない方がいい。おれはあのプロジェクトに関わったことを今でも後悔して る。あのプロジェクトは、資金の流入経路がかなりやばい。大学や一般企業だけでなく、裏企業や裏組織がいくつも関わってる。多分、この国の政府も関わって る。いや、この国の政府どころか、外国の政府もダミー会社を通じて関わってるし、諜報機関がいくつも暗躍してる。ん、つい書き過ぎた。おれは落ちる。とに かく、必ず裏があるから気をつけろ。

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