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暗闇のカオルと 閉ざされた記憶

第九章 怪物 8

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 薪負い神社の参道は、葉だけとなった桜が立ち並んでいる。
 後ろから追手が来ないことを確認しながら、参道を抜けたカオルたちは、薪負い公園に出たとことろで足を止めた。しかし、それは追手が来ないからではな い。公園で数人の男たちが待ち構えていたからだ。
  新手かと思い、カオルは顔を険しくした。だが、少し様子が違う。何と言うか、先ほどの男たちとはまるで雰囲気が違うのだ。先ほどの男たちは、顔付きや背格 好、細かい仕草などに、陰気で危険な感じがただよっていたが、今前にいる男たちは、スーツをかっちりと着こんで、姿勢正しく立っているせいか、誠実で礼儀 正しい印象を受ける。みな二、三十代ぐらいだろうか。
 どうすべきかと戸惑うカオル。すると、前にいる男たちの中で、もっとも年長に見える四十代ぐらいの男が、カオルにうやうやしく礼をした。それから、洗練 された動きで、ゆっくりと歩いて来た。
「カオル様、到着が遅れて申し訳ございません。わたしは桜川家の従者で、中久修造と申します。詩織様の命により、カオル様をお迎えに参りました」
 その中久と名乗った男は、これまた洗練された声でよどみなく言った。
 だが、今の状況で、その言葉をそのまま信じるカオルではない。あやしむような目で中久を見ながら言った。
「お前も青浦の仲間じゃないのか?」
「いいえ、違います。わたしたちは桜川詩織様に使える者です。機密のろうえいを図ろうとした青浦とは関わりはありません」
「……本当なのか?」
「はい。それと、その青浦ですが、今は警察が動いていますので、間もなく取り押さえられることでしょう」
 それを聞いたカオルたちは、みんなで顔を見合わせると、ほっと息を吐いた。
「では、ご案内致します。どうぞあちらの車にご乗車下さい」
 と言って、中久は公園内に乗り入れてある黒いリムジンを手で指した。
 だが、それでもまだ、カオルは中久を信用しきれない。それに、中久に付いて行くにしても、その前に絶対に確認しておかなければならないことがある。
「その前に一つ教えてくれ。その桜川詩織ってのは一体何者なんだ? おれを強化人間なんかにしたのはそいつなんだろ? そいつの目的はいったい何なん だ?」
 カオルの言葉を聞いた中久は、とても悲しそうな顔をして言った。
「そのことについては、わたしの口から申し上げることはできません。どうぞ、詩織様に直接お聞き下さい」
 カオルは何も答えず、疑うような目で中久の顔をじっと見た。
 すると、その横で、正志の腕をハンカチで止血していた景子が険しい声で言った。
「谷風君。考えている時間はないわよ」
 振り向いたカオルの目に映ったのは、完全に血の気の引いた正志の顔だった。正志は、断ち切れそうな意識を必死につなぎとめている。
「別の車も用意してあります。そちらの少年は、今すぐ救急病院までお運び致します」
 中久は言ってから、後ろを振り向いて手で合図した。
 そうしたら、後方にひかえていた男の中から、二人が素早く駆け寄り正志に肩をかすと、近くまで来た車に乗せた。
「カオル様方は、あちらの車で詩織様の屋敷までおいで下さい。今回の件について詩織様からお話があります」
 カオルたちはうなずき合うと、中久の指示に従い、黒いリムジンに乗り込んだ。

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